養育費~離婚後、非親権者からもらえる養育費について

養育費は、お子さんがいらっしゃる場合に、自分の仕事や資産で生活することができるようになるまで必要とされる費用のことをいいます。法律上の「子の監護に要する費用」(民法766条1項、771条)といいます。

協議離婚は、「親権」だけ決めればできることから、養育費の取り決めをしないで離婚をされてしまうケース、公正証書化しないケース、文書化しないケースなども少なくありません。

離婚後は、お子さんの「福祉」のため、養育費を受け取る必要がありますので、離婚の前に養育費の取り組みをして、離婚後は、直ちに養育費婚姻費用を請求しましょう。

養育費の計算方法や請求方法などの基礎知識をご紹介します。

養育費とは

養育費とは、夫婦が離婚すると、親権者となった親がこどもを監護養育することになりますが、こどもの監護養育に要する費用を養育費といいます。しかし、親権者とならなかった「非親権者」の親もこどもの親である以上、離婚後における応分の養育費を負担すべき義務があります。(民法766条1項)

この点、親権者となろうとしたが、なれなかった場合などは、養育費の分担に関心を示さない方もいます。養育費がこどもの健全な成長に欠かせないものですので、父母はこどもを健全に成長させる責任があるので、面会交流などを通じて養育費の支払いに過度に消極的にならないように監護親として配慮することも必要です。

養育費は、本来は、当事者の協議により決められるものですが、協議ができない場合には、「令和元年標準算定方式・算定表」があり、協議離婚においても、これを参考に決めているケースが多いと聴きます。

ただし、夫婦双方の収入額を算定表に単純に当てはめて金額を算出するだけでは足りないケースも多く、個別の事情に応じた適切な判断を行うため、算定表の金額について加算するなどの状況も考えられます。

離婚が成立しても、非親権者も子の養育費を分担する責任者であることは変わりません。主に、監護親から当該金額を求める理由、非監護者から支払可能な金額及びその根拠となる収入状況等を踏まえて決められます。

養育費は「扶養義務」

養育費は「扶養義務」の一種です。

父母が離婚して別居して、こどもを監護する場合、養育費を負担することになりますが、非親権者も扶養義務を負っているので、双方の収入に応じて養育費を分担することになります。

それゆえ、こどもの監護養育をする親は、その収入に応じて、双方の父母、特に問題になるのは一緒に住んでいない父親等に養育費の支払いを求めることができます。

養育費の分担義務は、例えば父親は、「自分と同等の生活を保持しなければならない」という高いレベルの義務をいいます。養育費の義務者は自分の生活レベルを落としてでも、相手に自分と同等の生活をさせなければなりません。(民法766条1項)

養育費の支払義務を負う側(非監護親)からの相談で、「こどもとの面会交流ができていないので、養育費は支払わない」との言い分を聴くこともありますが、そのような言い分は対価関係に法的に立たないため認められません。また、「家賃が高い、住宅ローンが高い、借金がある」などの事情があっても、養育費を減額する理由にはなりません。

養育費に含まれる費用

養育費には以下のようなこどもの費用が含まれます。

  • 家賃、食費、衣料費など衣食住にかかる費用
  • 水道光熱費
  • 通信費
  • 医療費
  • 交通費

ただし上記のような費用を個別に計算して清算する必要はなく推計計算で足ります。算定表から導かれた「お互いの収入に応じた一定金額」を月単位で支払うのが一般的です。

養育費を請求できるケース

養育費は、以下のような場合に請求できます。

  • 離婚前の別居中
    離婚前に別居する場合、婚姻費用の中に養育費相当額が含まれます。
  • 離婚した場合
    父母が離婚した場合、父母にこどもがあれば、父母の一方が親権者となり、こどもを監護養育することになります。そのための生活費を親権者が負担しますが、非親権者に対しても養育費の分担を請求できるのです。(民法877条1項、766条1項)

養育費の相場、計算方法

養育費は「毎月定額払い」とするのが通常なので「金額」を決める必要があります。

法律上、限度額などの制限はなく、夫婦双方が納得するならいくらに設定してもかまいません。これまでの生活にかかった金額や離婚後に想定される収入の変動などを考慮して、個別に設定するとよいでしょう。通常月は低めの金額にして、ボーナス月に増額するケースもよくあります。

何らかの基準がないと決めにくい場合、裁判所の定める「養育費の算定表」を参考にしましょう。

養育費の算定表とは、夫婦の収入や子どもの養育状況に応じて養育費の基準値をまとめた一覧表です。

養育費の算定表では、まず、義務者・権利者双方の実際の収入金額を基礎として、仮に、父母とこどもが同居しているというフィクションを描きます。そして、こどもの生活費を計算のうえ、これを義務者と権利者の収入の割合で案分して、義務者が支払うべき養育費の額を定めるものとされています。

算定表の特徴は、こどもが、収入のより多い親と同居している状態をフィクションで描くという点にポイントがあり、それにより、こどもの生活費を計算するという考え方をとっています。したがって、義務者の収入が権利者より低い場合は養育費の多額の請求は難しいでしょう。

詳しくはこちらをご参照ください。

養育費を請求できる期間

養育費は、原則として20歳まで請求しているケースが多いですが、就労している場合は「未成熟子」にあたらないため18歳で終期を迎えたり、大学卒業後の22歳を超える最初の3月までという取り決めの仕方をしたりすることもあります。

なお、18歳成年年齢の影響をどのように受けるのかは分かりませんが、わが国の大学進学率、専門学校進学率の高さに鑑みると、就労しない限りは20歳までの支払は原則になるのではないかと考えられます。(私見)

こどもが大学に進学して、20歳を超えて勉学生活をしている場合は、成人になったとしても、仕事をして収入を得ることはできません。そこで、養育費については、成人年齢に達した者であっても「未成熟子」と扱うことはでき、卒業するまで、養育費を支払うという合意をすることもあります。ただし、留年や留学などの場合は、非監護親側が不公平となるため、先に述べたように、「22歳に達した後に到来する3月末日まで」とその終期を明確にすることが多いといえます。

支払い始期について

支払い始期については、離婚の場合は、離婚月又はその翌月からということになりますが、認知の場合は、出生にさかのぼって養育費を請求することができるかどうかについては、これを肯定する見解と否定する見解があります。

裁判所の調停によって養育費を請求する場合には、「調停申立時からの分」しか認められないケースが多数です。つまり調停申し立て前に養育費が支払われていない場合は、その分は最終的に払ってもらえない可能性が高くなります。(請求時説)

もし婚姻をしていない場合において、認知後、養育費が支払われていない場合、早めに相手に請求すべきといえるでしょう。また、認知請求と並行して養育費の請求を内容証明でするなど、請求時説に照らしても請求ができるようにすることが大切です。

養育費の金額は婚姻費用よりかは低い

養育費の金額には配偶者の扶養料が含まれないため、婚姻費用より低額になります。

裁判所が定める養育費の相場の金額は養育費算定表にまとまっているので、話し合いで決める際の参考にしてみてください。

https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/H30shihou_houkoku/index.html

養育費を請求する方法

養育費を請求する手順を示します。

離婚前に話し合う

離婚は親権者だけ決まっていればできるため、養育費の話合いをしないまま離婚してしまうケースも少なくありません。そこで、離婚後スムーズに非監護親から、養育費の支払いを受けるため、可能な限り「離婚前に」養育費についての取り決めをしましょう。

離婚時に約束できていれば、離婚したときから、空白期間を空けずに養育費を受け取ることができます。

まずは養育費算定表を参考にしてお互いの収入状況に応じた金額を設定しましょう。

合意書を作成する

まずは離婚協議において、養育費について協議をまとめましょう。養育費の金額や支払い方法について合意できたら、必ず「離婚協議書」を作成し養育費の金額を記載しましょう。口約束では守られない可能性が高くなりますし、支払いを受けられなくても追及できなくなってしまうからです。

合意書ができたら弁護士を通じて公証人により、「公正証書」にしましょう。公正証書があれば、支払い義務者が払わないときに給料や預貯金などを差し押さえて取り立てができます。

別居前に取り決めができなかった場合

別居前に婚姻費用の取り決めができなかった場合には、以下のように対応しましょう。

相手に請求する

離婚協議において養育費の話合いを1度もしていない場合は、まずは相手に養育費の支払を請求してみてください。相手が任意に支払うなら、金額と支払い方法を取り決めて支払いを受けられるようになります。

この場合でも、「養育費支払いに関する合意書」を作成し、公正証書化しましょう。

養育費調停を申し立てる

離婚後において、相手が養育費の支払いに応じない場合には、家庭裁判所で「養育費調停」を申し立てる必要があります。

調停を申し立てると、調停委員が間に入って妥当な婚姻費用の金額を計算し、相手に支払うよう説得してくれるのが一般的です。

もっとも、ある程度、計算することもできますので、納得できなければ、調停を不成立にして、審判を行うのも良いかもしれません。

相手が納得すれば調停が成立し、調停調書が作成されます。調停が成立したにもかかわらず相手が払わない場合には、給与や預貯金などを差し押さえて養育費を回収できます。

養育費の審判で支払い命令が出る

相手が支払いに応じない場合やどうしても金額的に折り合いがつかない場合、調停は不成立になって「審判」になります。

審判では裁判官が妥当な婚姻費用の金額を計算し、相手に支払い命令(審判)を行います。

養育費の分担義務は生活保持義務に基づくものですので、少ない収入を分けあってでも生活すべきものです。養育費の支払義務者は、収入が相当低くても分担義務を免れることはできません。

なお、児童手当については、こどもを監護している監護親が仕事をしていない場合は、児童手当を権利者の収入に計上しません。しかし、義務者の収入が相当低い場合は、考慮されることもあります。義務者の収入が相当低い場合以外は児童手当は、考慮しないのが原則になっています。

なお審判で定まる養育費は、一般的には、「調停申立時からの遡及分(不払い分)」も含まれるので、まとまった不払い分の一括払いと審判後の月々の支払いの両方が命じられます。また、認知の場合は出生からの支払が命じられるケースも過去にはありました。

相手が審判による支払い命令に従わない場合、給料や預貯金などの差し押さえを行って回収できます。

養育費の金銭債権についての強制執行

養育費算定表では、公立中学校・公立高等学校に関する学校教育費を指数として考慮しています。

しかし、私立学校に通う場合の楽興教育費等は考慮していません。もっとも、非監護親が私立学校進学に同意していたと認められる事情がある場合は、標準表の金額に加算することも考えられます。

加算が考えられるのは、以下のものです。

  • 私立学校の入学金
  • 授業料
  • 交通費
  • 学習塾の費用
  • クラブ活動
  • 習い事
  • 非監護親がどの分を負担すべきか

この場合の加算については、例えば、高等学校の場合では、実際に支払うべき教育費を権利者と義務者で、基礎収入で案分することが多いといえます。

この場合、公立高校の楽興教育費年額25万9342円を目安にオーバーフローする部分を基礎収入で負担するということも考えられます。

なお、クラブ活動、習い事の月謝や教材費については、原則的には、こどもは、権利者と義務者が負担すべき義務者の範囲内で監護養育されるべきです。この場合は、義務者が承諾してくれるかによるのではないかと思いますが、義務者に対し、当然にこれを分担すべきであると考えられます。

養育費の金銭債権についての強制執行

養育費を支払ってくれない場合、調書や審判の場合は、家庭裁判所調査官に依頼して、「履行勧告」や「履行命令」を出してもらうことができます。ただし、公正証書による場合は、この制度は利用できません。

養育費の強制執行は、少額で、弁済期は毎月到来するという煩雑なものです。

そこで、養育費の債権については、一般の債権と同じように扱うのは相当ではありません。

そこで以下の相違点が養育費債権はあります。

  1. 差し押さえをする範囲が拡大されており、基本的に20歳までの分まで差し押さえられる。
  2. 養育費債権は、確定期限が到来していなくても、あらかじめ養育費債権の一部に不履行があれば、期限が到来していない債権についても差し押さえができる。
  3. 養育費債権は、間接強制の方法によることもできる。

民事執行法によると、養育費については、税金や社会保険料等を控除した給料の支給額(手取額)の2分の1まで(貸金や慰謝料などの通常の請求権の場合には4分の1まで) を差し押さえることが可能です。また、手取総額が66万円を超える場合には, 33万円を超える部分の全額を差し押さえることができます。

養育費の支払が遅れがちであるとか、何度請求してもなかなか支払ってもらえないという場合には、一度だけ最初に強制執行手続をとっておくと、その後は安心することができます。養育費が支払われなくて不安を抱えておられるなら、まずは弁護士へ相談してみてください。

養育費の請求をスムーズにして、養育費を受け取るためには弁護士に交渉や調停を任せるのが得策です。養育費交渉や調停を同時に依頼すれば、ご自身で相手とやり取りする必要がありません。労力や時間も節約できてストレスもかからなくなるメリットがあります。

離婚後の養育費の請求のお悩みごとがありましたら、お気軽にご相談ください。

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