面会交流で間接交流のみとされた事案
面会交流は、原則実施説を基調に例外的な事情がある場合には、面会交流は認められないとする判断枠組みが多いように思います。
これまで、「例外的な判断枠組み」というのは、1)暴力、2)連れ去りの恐れ、3)子の拒絶、4)児童虐待、5)再婚-などが挙げられていました。
しかし、最近は、こどもそれ自体の事情から、上記の例外的な判断枠組みに該当することもあるように思います。代表的な事例としては、1)こどもが幼児であること、2)発達障害があること、3)医師や臨床心理士の意見書があることなどが考えられます。
例えば、1)父母間の葛藤の結果、母親が疲弊してしまい、子の福祉に影響が出る場合ということがありましたが、ここで紹介する近時の名古屋家裁の審判例では、こどもそれ自体が、男性との間の接し方に問題があったり、発達障害があるなどの事情を総合して、こどもの利益にならないと判断しています。そして、それを覆すに足りるだけの父母間の良好さもないという判断枠組みを採用しているものと考えられます。
本件の事案では、男性の先生の姿で逃げ出した点や女性だけの療育グループに参加していること、専門家の意見書などが考慮されているといえそうです。そして、それらを覆すに足る父母間の低葛藤状態もないとの判断枠組みを採用し、間接交流に導いているといえそうです。
令和3年の名古屋家裁決定
「非監護親と子との面会交流を定めるにおいては,子の利益が最も優先して考慮されなければならない(民法766条1項)。
このような観点からすれば,面会交流が子の生活関係や監護親の監護養育,子自身の心身の状況等に照らし,子の福祉に反すると認められる場合には,面会交流が制限されることもやむを得ないというべきである。
申立人と未成年者の面会は,平成●●年●月の未成年者の出生後3~4回行われたものの、平成●●年●月以降は行われていないこと,未成年者は,元々の発達特性として、周囲の状況をうまく理解できず,集団行動に苦手さがあり、プレ幼稚園等で男性の先生の姿を見ただけで逃げ出し,活動への参加を拒否するということがあったため、安定した安心できる環境での療育が望ましいとして,現在は女性スタッフのみの療育グループに参加していること,未成年者の担当●●は,申立人と未成年者との面会は慎重に行った方がよい旨の意見書を出していることが認められる。
上記によれば,申立人と未成年者との面会を現時点で実施すると,未成年者の精神状態が悪化ないし不安定となるおそれが高いといえる。
したがって、申立人と未成年者との面会を実施するためには,当事者双方が協力して未成年者が安心して申立人と面会できるような状況ないし環境を作り出していく必要があるところ,申立人と相手方は現在も対立関係にあり,また他方当事者の実家とは折り合いが悪いため,当事者双方の父母から適切な援助を受けることも期待できないから,上記状況ないし環境を作り出すことは困難であるといわざるを得ない。
そうすると,申立人と未成年者との面会を実施することは,子の福祉に反すると認められるから,現時点では申立人と未成年者の面会を認めるのは相当ではない。
もっとも,現時点で面会を実施することが相当ではないとしても、将来の面会ひいては非監護親と子の健全な親子関係の構築につなげるため,間接交流の実施の可否については別途検討する必要がある。
この点について,相手方は,申立人及び申立人の親族の相手方と未成年者に対するこれまでの不当な言動と,これに対する謝罪及び弁償がないから,子の福祉のためにも間接的な面会交流も認めるべきではないと主張する。
しかし,相手方の主張する事情は,間接交流を一切認めるべきではないとの結論を出すのが相当である事情とまでは認められない。
本件においては,相手方に対し,3か月に1回,未成年者の写真(未成年者の顔及び全身を写したもの各1枚)を申立人に送付することを命じる限度であれば,相手方の健康状態その他本件に現れた一切の事情を考慮しても,相手方に大きな負担を課するものとはいえず,また,子の福祉に反するとも認められない。
したがって、上記の限度で申立人と未成年者との間接交流を認めるのが相当である。