子が面会交流を拒否する現象の理解について~女性の不貞行為による別居のケースを前提として。

最高裁の判例により、面会交流権は監護親の憲法上の権利であることは否定されたと報道されましたが、最高裁は、民法において抽象的権利が保障され、個別具体的な裁判などにより権利が具体化されると考えているようです。
面会交流事件は、際立って増加しており、かつ、平均審理期間も長くなっています。
ここでは、面会交流が行えない事情の一つとして、子による面会交流の拒否ないし拒絶の主張について検討していきたいと思います。離婚などの家族法の問題なら、名古屋駅ヒラソル法律事務所の安藤一幹弁護士まで。

こどもから面会交流を拒絶されて困っている方は父母を問わず、ぜひ参考にしてみてください。

1.PAS理論

もともと、別居してしまうと、こどもは、一方の親との結びつきを以上に強め、別居親との交流や接触を強く拒絶する現象をいいます。
このPAS=片親疎外という理論ですが、大きく、1)監護親の要因、2)非監護親の要因、3)子の要因、4)家族を取り巻く状況-などがあると考えられています。
実際はこれらが「混然一体」となって引き起こされているといえます。
例えば、3)子の要因とは、子の脆弱性、子の年齢、認知能力、気質です。また、4)家族を取り巻く状況とは、高葛藤、別居の経緯、離婚の葛藤と訴訟に分けられると考えられています。
これらの諸要因は相互に影響を及ぼしあってしまうことから早期の介入が望ましいといわれています。

2.解決に向けたアプローチは?

では、問題解決の方法があるのでしょうか。ここが、通常のプロブレム・ソリューションと異なるところではないかと思います。
子の拒絶がある場合において、裁判所は、「その原因」を探そうとする姿勢で事例理解をしていたと考えられます。
しかし、結果的に、それは状況を後付けで説明するだけに終始するだけで、具体的な介入方法や改善方法を提案するものにはならないと思います。
こどもは、単に紛争に巻き込まれている客体ではありません。しかし、客体と扱われているという実務上感じざるを得ない実態もあります。
実務上は、「子の反応」に着目しています。例えば、悪循環があるのであれば、「循環」の一部として位置づけ、子の反応が周囲に及ぼす影響については考慮の対象に入れるのが妥当です。
一般的に、面会交流でのトラブルは悪循環の要因(=PASの要因)が当事者にとって意味があるからこそ、止められることなく続けられているものと考えられます。
例えば、私が担当している事件でも、申立人が面会交流を主張することによって、申立人の不貞に対する怒りが再び喚起するために申し立てている可能性があり、会いたくて面会交流を申し立てているのか疑問とみられるものもありました。
そのため、申立人への攻撃的な発言をしていたと理解すると、相手方の申立人を非難するという行動は、相手方の離婚に伴う心理的葛藤に対処するために必要な行動といえるし、少なくとも面会交流上、法的にはケアする必要のない問題といえます。
たとえば、弁護士や家庭裁判所調査官が介入するにしても、「新しい関係性を築くという課題だけでは十分ではない」といえるのであり、非難をするというものとは別の言動で、相手方が離婚に伴う心理的葛藤に対処できるようにするようにする必要があるといえます。

3.具体例(教室設例)

山田雅子は、谷原省吾と不倫をして、不倫をした雅子から夫である相手方雅彦に対して離婚調停を提起し、同時に、父側にいる蓮に対する面会交流調停が提起されていたものである。
雅彦は省吾に損害賠償訴訟を起こし、雅子とは調停離婚をしたものの、面会交流調停について、当事者の8歳の長男・蓮について第三者の立ち合いを条件とすることを雅彦が譲らず、調停が難航した。
試行的面会交流の実施を裁判所が決定したが、当事者は、蓮の都合を理由に不出頭であった。

3-1.何が面会交流を難しくしているのか、どのような悪い相互作用が働くのか

雅子と雅彦は、どちらに非があるかについて争っている状態にあることが分かりました。
雅彦は、雅子の不貞を責めて、自分やこどもを捨てて出て行ったと主張しました。
また、雅子は、雅彦に無理矢理言わされたのであり、追い出されたDVである、と主張しました。

3-2.家族のシステム(連合の形成)

家族システムの現状に照らすと、雅彦と蓮は、雅子が不倫をして自分たちを捨てて出て行ったということで非難し、雅子を排除しようという親子連合を形成しているといえます。
ところで、「連合体」を形成しているということは、雅彦と蓮が新しい家族生活に適合しようというポジティブな取り組みと評価することもできます。
ところが、実際は、二人の間で、「雅彦と蓮の葛藤を回避しようとする関係性」というネガティブに受け取ることもできます。
そうした雅彦と蓮の関係性について、雅子が自己の正当性を主張することで対抗しようとすることになるものの、蓮の立場からすると、同居する雅彦との葛藤は避けたいことに照らすと、雅彦と蓮が新しい家族生活に適合しようというポジティブな関係性を優先せざるを得ないことになるのです。
そこでこどもも含めて、非難の応酬が過熱することにより、家族内のコミュニケーションにおいて、別居の経緯においての善悪を問う内容が大きな比重を占めることになるのです。
つまり、別居の経過は、いわゆる面会交流原則実施説とその例外4要件+再婚とは関係がないはずであるが、むしろ別居の経緯により、雅彦と蓮の連合体の関係性がポジティブなものになることもあれば、ネガティブなものになることもあるため、意外と裁判所が軽視するほどの軽い因子ではないことが分かります。
そこで、別居の経過などが「クローズアップ」されて対立が激化すると、雅子と、雅彦及び蓮の対立関係がより顕在化する状況になるということになります。

3-3.こどもの受け止め方(連合の中で)

蓮にとって、雅子が家を出て行ってしまうのは突然のことです。理由や経緯が理解できずにいたところ、雅彦から「不倫のこと」を聴かされます。
そこに、雅子から蓮のキッズ携帯に「お父さんに追い出された。悪いのはすべてお父さん」という電話連絡が入りました。
しかし、9歳という年齢さからは、復縁妄想も捨てきれないし、また、必要以上に「不倫」について解説されることもありませんでした。そして、雅彦が、蓮にも雅子の悪口をいうようになったことに照らして、十分なリテラシー能力を持ち合わせていない蓮としては、雅彦という言い分を真実らしいと判断し、雅彦と同調し連合が形成されていくという機序があります。
このように、こどもは、第一には、自己で判断をして葛藤の原因を判断することもありますし、第二には、雅彦の言動に同調するということで行動の形成及び維持の要因としては、家族システムの影響があると考えられます。

4.家族レベルへの非難の応酬を止めることが必要であること

家族システムレベルの課題としては、非難の応酬を止めることが必要と考えられます。この点が、悪循環を断ち切るためには必要であると考えられます。
また、個人レベルの課題としては、双方が葛藤から距離を置いて、両親間の葛藤が長男及び二男の言動に及ぼす影響に気付いて、新しい親子関係の構築に目を向けられるかということになります。
つまり、このケースでいえば、こどもたちは、家族システムの中で、傷ついてしまっているのは事実であり、雅子が主張する不倫の真実やその正当性を説明したいことは、こどもの福祉に沿わないことが分かる。
いずれにしても、家族システムと個人のシステムに着目して、個人の行動を理解する必要があります。

5.一度、第三者へご相談を

まずは、面会交流については、真実が家族システムないし連合体の中で真実と扱われるとも限らないということであり、自己正当化や相手方を非難しても未成年者らとの面会交流にはつながらないことになるといえそうです。
また、こどもの複雑な心情、特に、葛藤についてどちらが悪いかというジャッジメントを既にしているようなケースでは、別居の経緯に対するわだかまりに固着する姿勢が十分に改善されるとはいえません。
こうした、いわば、二重層から課題を見立てる必要があるのです。
必要に応じて心理的調整が必要な例として、PASが生じている問題は取り上げることができます。
面会交流ができなくて、あるいは、こどもの反応が少しでもおかしいと感じているなら、一度第三者へ相談してみるようお勧めします。いきなり女性センターなどのハードルが高ければ、まずは実家の親族や友人などでもかまいません。身近な人の支援を受けて、公的な機関や弁護士につないだり,相談しようと考えている弁護士に相談したりしましょう。

当事務所では離婚やそれに伴う面会交流案件も扱っております。
多くの面会交流事件を担当している弁護士でなければ、見通しを立て辛いといえます。おひとりで悩まれずに、お気軽にご相談ください。

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