年金分割について

離婚するときに「年金分割」の手続きをしておくと、将来受け取る年金額が増額されて老後の生活を維持しやすくなるケースが多々あります。年金分割は、離婚される方の年齢層によって興味関心が異なります。しかし、将来受給できる年金に関わる大切な問題です。

年金分割は、すべての事案に適用できるわけではありません。また年金分割には2種類があり、個別事情によってとるべき手続きが異なってきます。
今回は2種類の年金分割の特徴やそれぞれの手続きの進め方について解説しますので、これから離婚を進める方はぜひ参考にしてみてください。

1.年金分割とは

年金分割とは、夫婦が婚姻中に払い込んだ年金保険料を離婚時に分割する制度です。詰めると、納めた「年金記録」を分けるものといえます。
年金分割を行っておくと、元夫婦が将来年金を受け取る際の支給金額が自動的に調整されます。
払い込んだ保険料の多い側の年金額は減らされ、払い込んだ保険料の少ない側の受給額が増額されます。

たとえば夫が会社員で妻が専業主婦の場合、年金受給年齢となったときの夫の老齢年金の金額が減って妻に移譲され、妻の受給額が増やされます。

2.年金分割できるケース

年金分割は、すべてのケースに適用できるわけではありません。
夫婦の一方または双方が「厚生年金」に加入している場合のみが対象です。ただし厚生年金に統一される前の公務員の「共済年金」も年金分割の対象になります。

国民年金や国民年金基金には年金分割を適用できず、夫婦の双方が個人事業主や無職などで国民年金にしか入っていないなら年金分割はできません。
民間保険会社の個人年金や、退職金代わりの確定拠出年金なども年金分割の対象外です。(この場合は、財産分与に反映できる場合がありますので、弁護士にご相談ください。)

3.2種類の年金分割

年金分割には合意分割と3号分割の2種類があり、それぞれ内容や手続きが異なります。

合意分割

合意分割は、夫婦が話し合いをして年金分割の割合を定めて自主的に行う年金分割です。
合意分割するには、被分割者(年金分割される人)による同意が必要で、分割割合も0.5までの範囲で自由に設定できます(ただし最低限の分割割合はケースによって異なります)。

合意分割が適用されるのは、以下のような場合です。

  • 平成20年3月以前から婚姻していた
  • 婚姻中、一方が他方の3号被保険者(被扶養者)ではない期間があった
    主に1号被保険者であることです。

3号分割

3号分割は、一方が他方の3号被保険者で、かつ平成20年4月以降の年金保険料のみ分割する場合です。
3号被保険者とは、わかりやすくいうと「被扶養者」です。専業主婦やパートなどの方で相手の扶養に入っている方は通常3号被保険者になります。
3号分割の制度が開始されたのは平成20年4月以降なので、それ以降の年金分割であれば3号分割を適用できます。つまり平成20年4月以降の夫婦でしたら、3号分割の場合に限れば、5:5の割合で年金事務所において、「行政上」、当然に分けることとなります。
一方、3号被保険者であっても平成20年3月以前に婚姻期間のある方は、別途「合意分割」しなければなりません。

3号分割には相手の同意が不要で、請求者は単独で年金分割の手続きができ、分割割合は当然に0.5となります。

4.年金分割で移譲される年金額

年金分割をすると、具体的にどのくらいの年金額の変動があるのでしょうか?
一般に年金分割をすると「年金が半分ずつになる」と思われているケースがよくありますが、誤解です。
年金分割をしても、年金額は半分ずつになりません。分割対象はあくまで「婚姻期間中に払い込んだ年金保険料」に比例する部分であり、かつ厚生年金部分にしか適用されないためです。もともと年金は、「行政法」ですので、私的な積み立て年金ではありません。納めた年金記録に基づいて、支給額を決めるため、年金事務所での確認をお勧めします。

婚姻期間が長い熟年離婚の場合には比較的移譲額が大きくなりますが、それでも月額3万円程度の変動幅になる例が多いでしょう。たとえば夫の年金額がもともと月額15万円、妻の年金額がもともと6万円だった場合、夫の受取額が12万円になって妻の受取額が9万円になるなどです。

妻と夫の受取額が同額になるわけではありません。誤解のないようにしましょう。

年金分割後の見込額を知る方法

50歳以上の方や障害年金を受け取っている方の場合、年金事務所へ問い合わせると「分割後の見込み年金受給額」を教えてもらえます。
気になる方は問い合わせてみてください。

5.合意分割の手続きの進め方

年金分割の手続き方法は、合意分割と3号分割で異なります。
まずは合意分割の手順をみてみましょう。

年金事務所へ「年金分割情報通知書」を申請

合意分割したい場合、まずは年金事務所へ「年金分割情報通知書」を申請する必要があります。年金分割情報通知書には、年金加入期間や分割対象となる期間、合意分割で適用できる分割割合の範囲などの情報が書かれています。

年金事務所へ年金分割情報通知書を申請すると、1~2週間程度で年金事務所から自宅宛に郵送されてきます。(自宅宛てでは困る方などはご注意ください。)

相手と話し合う

年金分割情報通知書を受け取ったら、相手と話し合って年金分割についての同意をとらねばなりません。
その際「分割割合」も定める必要があります。
年金分割情報通知書に「下限の割合」が書いてあるので、それを最低ラインとして0.5(2分の1)までの範囲で割合を決定しましょう。
迷ったときには公平に「0.5」とするようお勧めします。

合意書を作成する

年金分割について合意ができたら、年金分割についての合意書を作成しましょう。
合意書は、当事者同士が任意に作成するものでも有効です。他の離婚条件とともに協議離婚合意書に年金分割の条項を入れるとよいでしょう。もしくは年金分割についての合意書を別途作成してもかまいません。

また公正証書を作成すると、離婚後に請求者が1人で年金事務所へ行って手続きができるので便利です。養育費や財産分与などの金銭給付を受けやすくなるメリットもあるので、できれば協議離婚合意書を公正証書化しておくようお勧めします。

離婚後に年金事務所で手続きを行う

合意書を作成したら離婚後に合意書を持って年金事務所へ行きましょう。
当事者が任意に作成した合意書の場合、元夫婦が2人で年金事務所に行かねばなりません。
公正証書による合意書があれば、請求者が1人で行って手続きできます。
いずれにしても本人確認書類や戸籍謄本、年金手帳などの書類が必要なので持参しましょう。年金事務所で「標準報酬改定請求書」を提出すれば、年金分割の手続きが完了します。

相手が合意しない場合

相手が合意しないと合意分割はできません。その場合、離婚後に家庭裁判所で「年金分割調停」を申し立てましょう。
調停になると調停委員が相手に対し、年金分割に応じるよう説得してくれます。
相手がどうしても応じない場合、審判になって審判官が年金分割の方法を定めます。
審判による年金分割割合はほとんどのケースで0.5とされます。
審判が出たら、請求者が単独で審判書と確定証明書を持って年金事務所へ行けば、合意分割の手続きをしてもらえます。

6.3号分割の手続きの進め方

3号分割の場合、相手方との話し合いは不要です。
離婚後に請求者が1人で年金事務所へ行き、標準報酬改定請求書を提出すれば年金分割の手続きが完了します。

7.年金分割の期限

年金分割には「期限」があるので注意しなければなりません。
「離婚後2年以内」に年金事務所で標準報酬改定請求書を提出しなければ、年金分割を受け付けてもらえなくなってしまいます。

特に注意が必要なのは合意分割が適用される場合です。相手と話し合っているうちに2年が過ぎると、せっかく合意できても年金分割に間に合わないリスクが発生します。

離婚後2年が経過しそうな場合には、早めに家庭裁判所で年金分割調停を申し立てましょう。調停が始まると、調停中に2年が経過しても期限切れになりません。
ただし調停や審判の最中に離婚後2年が経過してしまった場合、調停成立日や審判確定日から1ヶ月以内に手続きをしないと、年金分割を受け付けてもらえなくなってしまいます。
早めに裁判所から受け取った書類をもって年金事務所へ行きましょう。

年金分割について疑問のある方や相手と交渉しても年金分割を受け入れてもらえない場合など、お困りでしたら弁護士がお力になります。お気軽にご相談ください。

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