生命保険契約照会制度について
せっかく生命保険に加入しても、誰にも知らせないまま亡くなってしまったり認知症にかかってしまったりしたら、保険金を受け取れないリスクが発生します。
従来は契約者の相続人や親族が生命保険への加入状況を調べようとしても、どこの生命保険会社と契約しているか特定できなければ内容の照会が困難でした。
今般、保険金を受け取れないリスクを軽減するため「生命保険契約照会制度」が作られ、関係者は「生命保険協会」という団体へ、本人の生命保険契約の加入状況を調べられるようになりました。
この記事では新しく利用できるようになった「生命保険契約照会制度」で調べられる内容や照会方法を解説します。
1.生命保険契約照会制度とは
生命保険契約照会制度とは、保険契約者が死亡したり認知症になったりして契約内容が不明になってしまったとき、親族や関係者が保険契約の有無を「生命保険協会」へ照会するための制度です。
生命保険協会とは、日本の生命保険会社のほとんどが加入している団体です。
生命保険による死亡保険金やその他の保険金は、「申請」をしなければ受け取れません。ところが契約者が家族に詳細な保険加入状況を伝えていないと、家族もどこの保険会社へどういった申請をすればよいか判断するのが難しくなります。結果的に保険金を適正に申請できず、受け取れないケースも多数発生していました。保険金請求権は請求事由(被保険者の死亡など)が発生してから3年で時効消滅するので、家族が保険の契約状況を把握できないと保険金請求権が失われてしまうリスクも高まります。
このようなリスクをなくして適正に保険金が支払われるように、生命保険契約照会制度が作られました。
なお、以前から「災害」によって本人が死亡あるいは行方不明となったケースでは、配偶者や親子などの親族が保険契約を照会できる「災害地域生保契約照会制度」がありました。しかしこの制度は「平常時」に利用できず、限界が指摘されていたのです。
そこでこのたび「生命保険契約照会制度」が策定され、「災害地域生保契約照会制度」と一本化されました。
生命保険契約照会制度の運用開始時期
平常時にも親族などが保険契約内容を照会できる「生命保険契約照会制度」の運用は2021年7月1日から開始されています。
2.生命保険契約照会制度の利用条件と申請できる人、申請方法
生命保険契約照会制度を利用できるのは、保険契約者が以下の状態になったときです。
- 平常時において死亡した
- 認知判断能力が低下した
- 災害で死亡または行方不明となった
以下でそれぞれのパターンにおける申請者や申請方法を確認しましょう。
平常時において死亡した
契約者本人が病気などによって平常時に死亡してしまい、保険契約の有無がわからなければ以下の人が保険加入状況を照会できます。
- 法定相続人
- 法定相続人の法定代理人(親権者など)
- 法定相続人から委託された弁護士や司法書士などの代理人
- 遺言執行者
照会はインターネットまたは郵送で行います。
認知判断能力が低下した
本人が認知症などになり、判断能力が低下して保険の加入状況が不明になった場合にも、一定範囲の人が保険契約の有無を照会できます。
この場合「本人の認知判断能力が低下」した事実を証明するため、指定書式の診断書を用意しなければなりません。担当医に作成を依頼しましょう。
照会できる人は以下の通りです。
- 本人の法定代理人
- 本人から委託された弁護士や司法書士などの代理人
- 任意後見人
- 「3親等内」の親族
- 「3親等内」の親族から委託を受けた弁護士や司法書士などの代理人
照会方法はインターネットまたは郵送です。
災害で死亡または行方不明となった
本人が災害によって死亡したり行方不明となったりして、保険契約内容が不明な場合にも生命保険照会制度を利用できます。
照会できる人は以下の通りです。
- 配偶者、親、子、兄弟姉妹
- 配偶者、親、子、兄弟姉妹の法定代理人
- 配偶者、親、子、兄弟姉妹から委任された弁護士や司法書士などの代理人
災害によって死亡または行方不明となった場合、緊急性が高いため電話で照会を受け付けてもらえます。
3.生命保険契約照会制度の必要書類と料金
生命保険契約照会制度の必要書類や料金、申請後の流れをパターン別にみてみましょう。
平常における死亡のケース
法定相続人が照会
- 照会者の本人確認書類(運転免許証など)
- 法定相続情報一覧図または相続人と本人の関係がわかる戸籍
- 本人の死亡診断書
法定相続人の法定代理人が照会
- 照会者の本人確認書類(運転免許証など)
- 法定相続情報一覧図または相続人と本人の関係がわかる戸籍など
- 死亡診断書
- 法定代理権の確認書類
法定相続人から委託を受けた弁護士などが照会
- 照会者の本人確認書類(運転免許証など)
- 法定相続情報一覧図または相続人と本人の関係がわかる戸籍等
- 死亡診断書
- 弁護士などへの委任状
遺言執行者が照会
- 照会者の本人確認書類(運転免許証など)
- 印鑑証明書
- 遺言書
- 遺言者の除籍謄本
照会にかかる費用
照会の際、3000円の費用がかかります。コンビニまたはクレジットカードで支払えます。
認知判断能力が低下した場合の必要書類
本人の法定代理人が照会
- 照会者の本人確認書類(運転免許証など)
- 法定代理権の確認書類
本人から委任された弁護士などが照会
- 照会者の本人確認書類(運転免許証など)
- 弁護士等への委任状
- 生命保険協会所定書式による診断書
任意後見人が申請
- 照会者の本人確認書類(運転免許証など)
- 任意後見契約にもとづく代理権を確認できる登記事項証明書などの書類
3親等内の親族が照会
- 照会者の本人確認書類(運転免許証など)
- 本人との続柄がわかる戸籍や住民票等の書類
- 本人が意思表示できる場合には本人による同意書
- 生命保険協会所定の診断書
3親等内の親族から委任された弁護士などが照会
- 照会者の本人確認書類(運転免許証など)
- 親族と本人の続柄がわかる戸籍や住民票等の書類
- 本人の同意書(本人が意思表示できる場合のみ)
- 弁護士等への委任状
- 生命保険協会所定の診断書
照会にかかる費用
照会の際、3000円の費用がかかります。コンビニまたはクレジットカードで支払いましょう。
また生命保険協会所定書式の診断書を医師に作成してもらう際、診断書作成料がかかります。
災害時の死亡または行方不明の場合
災害時の場合、電話で照会できるのであらかじめ書類を集める必要はありません。
利用料金は無料です。
4.開示される情報内容
生命保険契約照会制度によって開示されるのは、生命保険契約の有無と契約している生命保険会社の名称です。
照会申請後、調査を経て2週間程度で情報開示されます。
災害時照会制度を使って電話で申請した場合でも、回答は郵送になります。
なお財形保険契約、財形年金保険契約、支払いが開始した年金保険契約や保険金が据え置きになっている保険契約は生命保険契約照会制度の対象になりません。
5.情報開示を受けた後の対処方法
保険会社に契約内容を問い合わせる
生命保険契約照会制度によって開示されるのは、基本的に「契約の有無」です。
詳細な保険契約の内容は、各保険会社へ個別に確認しなければなりません。
保険会社はそれぞれ利用者用のコールセンターや問い合わせフォーム等をもうけているので、情報開示を受けたら判明した生命保険会社へ問い合わせましょう。
保険金を請求する
保険契約の内容がわかったら、次に保険金の申請をしなければなりません。保険会社から保険金請求用の用紙を送ってもらい、必要事項を記入して書類をそろえて申請しましょう。
ネットで申請できるケースもあるので、詳細な請求方法は保険会社で確認してみてください。
保険金請求権の時効に要注意
保険金の申請は保険金支払事由が発生してから3年以内に行わねばなりません。期限を過ぎると時効にかかって保険金を受け取れなくなってしまうので、早めに申請しましょう。
詳細な生命保険の加入状況がわからない場合でも、「生命保険契約照会制度」を使えば保険金受け取り漏れのリスクが低減します。
ご本人が認知症にかかってしまった、死亡した方がどこの保険会社に加入しているかわからないといった状況に陥ってしまったら、ぜひとも一度利用を検討してみてください。